P--119 P--120 P--121 #1仏説阿弥陀経    仏説阿弥陀経                       姚秦三蔵法師鳩摩羅什奉詔訳 #2序分 【1】 かくのごとく、われ聞きたてまつりき。ひととき、仏、舎衛国の祇樹給 孤独園にましまして、大比丘の衆、千二百五十人と倶なりき。みなこれ大阿羅 漢なり。衆に知識せらる。長老舎利弗・摩訶目&M020078;連・摩訶迦葉・摩訶迦旃延・ 摩訶倶&M027471;羅・離婆多・周利槃陀伽・難陀・阿難陀・羅&M023523;羅・驕梵波提・賓頭盧 頗羅堕・迦留陀夷・摩訶劫賓那・薄拘羅・阿&M060797;楼駄、かくのごときらのもろ もろの大弟子、ならびにもろもろの菩薩摩訶薩、文殊師利法王子・阿逸多菩薩 (弥勒)・乾陀訶提菩薩・常精進菩薩、かくのごときらのもろもろの大菩薩、 および釈提桓因等の無量の諸天・大衆と倶なりき。 #2正宗分 【2】 そのとき、仏、長老舎利弗に告げたまはく、「これより西方に、十万億の 仏土を過ぎて世界あり、名づけて極楽といふ。その土に仏まします、阿弥陀と 号す。いま現にましまして法を説きたまふ。 P--122 【3】 舎利弗、かの土をなんがゆゑぞ名づけて極楽とする。その国の衆生、もろ もろの苦あることなく、ただもろもろの楽を受く。ゆゑに極楽と名づく。  また舎利弗、極楽国土には七重の欄楯・七重の羅網・七重の行樹あり。みな これ四宝周匝し囲繞せり。このゆゑにかの国を名づけて極楽といふ。  また舎利弗、極楽国土には七宝の池あり。八功徳水そのなかに充満せり。池 の底にはもつぱら金の沙をもつて地に布けり。四辺の階道は、金・銀・瑠璃・ 玻&M021324;合成せり。上に楼閣あり。また金・銀・瑠璃・玻&M021324;・&M024226;&M024470;・赤珠・碼碯を もつて、これを厳飾す。池のなかの蓮華は、大きさ車輪のごとし。青色には青 光、黄色には黄光、赤色には赤光、白色には白光ありて、微妙香潔なり。舎利 弗、極楽国土には、かくのごときの功徳荘厳を成就せり。また舎利弗、かの仏 国土には、つねに天の楽をなす。黄金を地とし、昼夜六時に天の曼陀羅華を雨 らす。その国の衆生、つねに清旦をもつて、おのおの衣&M034301;をもつて、もろもろ の妙華を盛れて、他方の十万億の仏を供養したてまつる。すなはち食時をもつ て本国に還り到りて、飯食し経行す。舎利弗、極楽国土には、かくのごとき の功徳荘厳を成就せり。 P--123  また次に舎利弗、かの国にはつねに種々奇妙なる雑色の鳥あり。白鵠・孔 雀・鸚鵡・舎利・迦陵頻伽・共命の鳥なり。このもろもろの鳥、昼夜六時に 和雅の音を出す。その音、五根・五力・七菩提分・八聖道分、かくのごときら の法を演暢す。その土の衆生、この音を聞きをはりて、みなことごとく仏を念 じ、法を念じ、僧を念ず。舎利弗、なんぢこの鳥は実にこれ罪報の所生なりと 謂ふことなかれ。ゆゑはいかん。かの仏国土には三悪趣なければなり。舎利 弗、その仏国土にはなほ三悪道の名すらなし、いかにいはんや実あらんや。こ のもろもろの鳥は、みなこれ阿弥陀仏、法音を宣流せしめんと欲して、変化し てなしたまふところなり。舎利弗、かの仏国土には微風吹いて、もろもろの宝 行樹および宝羅網を動かすに、微妙の音を出す。たとへば百千種の楽を同時に 倶になすがごとし。この音を聞くもの、みな自然に仏を念じ、法を念じ、僧を 念ずるの心を生ず。舎利弗、その仏国土には、かくのごときの功徳荘厳を成就 せり。 【4】 舎利弗、なんぢが意においていかん、かの仏をなんのゆゑぞ阿弥陀と号す る。舎利弗、かの仏の光明無量にして、十方の国を照らすに障碍するところな P--124 し。このゆゑに号して阿弥陀とす。また舎利弗、かの仏の寿命およびその人民 〔の寿命〕も無量無辺阿僧祇劫なり。ゆゑに阿弥陀と名づく。舎利弗、阿弥陀仏 は、成仏よりこのかたいまに十劫なり。また舎利弗、かの仏に無量無辺の声聞 の弟子あり、みな阿羅漢なり。これ算数のよく知るところにあらず。もろもろ の菩薩衆、またまたかくのごとし。舎利弗、かの仏国土には、かくのごときの 功徳荘厳を成就せり。 【5】 また舎利弗、極楽国土には、衆生生ずるものはみなこれ阿&M042889;跋致なり。 そのなかに多く一生補処〔の菩薩〕あり。その数はなはだ多し。これ算数のよ くこれを知るところにあらず。ただ無量無辺阿僧祇劫をもつて説くべし。舎利 弗、衆生聞かんもの、まさに発願してかの国に生ぜんと願ふべし。ゆゑはい かん。かくのごときの諸上善人とともに一処に会することを得ればなり。舎利 弗、少善根福徳の因縁をもつてかの国に生ずることを得べからず。  舎利弗、もし善男子・善女人ありて、阿弥陀仏を説くを聞きて、名号を執持 すること、もしは一日、もしは二日、もしは三日、もしは四日、もしは五日、 もしは六日、もしは七日、一心にして乱れざれば、その人、命終のときに臨 P--125 みて、阿弥陀仏、もろもろの聖衆と現じてその前にましまさん。この人終らん とき、心顛倒せずして、すなはち阿弥陀仏の極楽国土に往生することを得。舎 利弗、われこの利を見るがゆゑに、この言を説く。もし衆生ありて、この説を 聞かんものは、まさに発願してかの国土に生るべし。 【6】 舎利弗、われいま阿弥陀仏の不可思議の功徳を讃歎するがごとく、東方 にまた、阿&M041309;&M042889;仏・須弥相仏・大須弥仏・須弥光仏・妙音仏、かくのごときら の恒河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国において、広長の舌相を出し、 あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたまはく、〈なんぢら衆生、 まさにこの不可思議の功徳を称讃したまふ一切諸仏に護念せらるる経を信ずべ し〉と。 【7】 舎利弗、南方の世界に、日月灯仏・名聞光仏・大焔肩仏・須弥灯仏・無量 精進仏、かくのごときらの恒河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国におい て、広長の舌相を出し、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたま はく、〈なんぢら衆生、まさにこの不可思議の功徳を称讃したまふ一切諸仏に 護念せらるる経を信ずべし〉と。 P--126 【8】 舎利弗、西方の世界に、無量寿仏・無量相仏・無量幢仏・大光仏・大明 仏・宝相仏・浄光仏、かくのごときらの恒河沙数の諸仏ましまして、おのおの その国において、広長の舌相を出し、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の 言を説きたまはく、〈なんぢら衆生、まさにこの不可思議の功徳を称讃したま ふ一切諸仏に護念せらるる経を信ずべし〉と。 【9】 舎利弗、北方の世界に、焔肩仏・最勝音仏・難沮仏・日生仏・網明仏、 かくのごときらの恒河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国において、広長 の舌相を出し、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたまはく、 〈なんぢら衆生、まさにこの不可思議の功徳を称讃したまふ一切諸仏に護念せ らるる経を信ずべし〉と。 【10】 舎利弗、下方の世界に、師子仏・名聞仏・名光仏・達摩仏・法幢仏・持 法仏、かくのごときらの恒河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国におい て、広長の舌相を出し、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたま はく、〈なんぢら衆生、まさにこの不可思議の功徳を称讃したまふ一切諸仏に 護念せらるる経を信ずべし〉と。 P--127 【11】 舎利弗、上方の世界に、梵音仏・宿王仏・香上仏・香光仏・大焔肩仏・ 雑色宝華厳身仏・娑羅樹王仏・宝華徳仏・見一切義仏・如須弥山仏、かくのご ときらの恒河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国において、広長の舌相を 出し、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたまはく、〈なんぢら 衆生、まさにこの不可思議の功徳を称讃したまふ一切諸仏に護念せらるる経を 信ずべし〉と。 【12】 舎利弗、なんぢが意においていかん。なんのゆゑぞ名づけて一切諸仏に 護念せらるる経とするや。舎利弗、もし善男子・善女人ありて、この諸仏の所 説の名および経の名を聞かんもの、このもろもろの善男子・善女人、みな一切 諸仏のためにともに護念せられて、みな阿耨多羅三藐三菩提を退転せざること を得ん。このゆゑに舎利弗、なんぢらみなまさにわが語および諸仏の所説を信 受すべし。舎利弗、もし人ありて、すでに発願し、いま発願し、まさに発願し て、阿弥陀仏国に生ぜんと欲はんものは、このもろもろの人等、みな阿耨多羅 三藐三菩提を退転せざることを得て、かの国土において、もしはすでに生れ、 もしはいま生れ、もしはまさに生れん。このゆゑに舎利弗、もろもろの善男 P--128 子・善女人、もし信あらんものは、まさに発願してかの国土に生るべし。 #2流通分 【13】 舎利弗、われいま諸仏の不可思議の功徳を称讃するがごとく、かの諸仏 等もまた、わが不可思議の功徳を称説して、この言をなさく、〈釈迦牟尼仏、 よく甚難希有の事をなして、よく娑婆国土の五濁悪世、劫濁・見濁・煩悩濁・ 衆生濁・命濁のなかにおいて、阿耨多羅三藐三菩提を得て、もろもろの衆 生のために、この一切世間難信の法を説きたまふ〉と。舎利弗、まさに知るべ し、われ五濁悪世においてこの難事を行じて、阿耨多羅三藐三菩提を得て、一 切世間のために、この難信の法を説く。これを甚難とす」と。 【14】 仏、この経を説きたまふこと已りて、舎利弗およびもろもろの比丘、一 切世間の天・人・阿修羅等、仏の所説を聞きて、歓喜し、信受して、礼をなし て去りにき。 仏説阿弥陀経